今年2022年も、クリスマスを過ぎると一気に押し詰まってきた。
そんなある日、大阪の建築家のYさんが「今日、ノッヴェロを送りましたよ。」とメールをくれた。
ノッヴェロとは、イタリアトスカーナ地方が産地の、ある特定のオリーブオイルのことだ。
「その年の秋に手積みで収穫したオリーブを絞ったもので、要するに新米みたいなもの。一般的なエクストラヴージンオリーブオイルと言われているものより、もっと新鮮で搾りたてです。」
と、不勉強の私のために、Yさんが文中丁寧に説明してくれていた。
Yさんは、雑誌月刊ペンの愛読者。そこに掲載されていたイタリア・トスカーナ地方のフランコ・バルディという、オリーブの有機栽培生産者の記事を読んだことについて綴られていた。
記事を読むにつれて、フランコ氏が作るオリーブオイルが食べたくなったYさん。知り合いのトスカーナ在住の女性Oさんに訊いてみたら、なんとその記事を書いたのがOさんだったという話でYさんも驚いた。
Oさんは、NHKのイタリア語講座テキストの中で、トスカーナでの日々を書いたり、色々な雑誌のイタリア特集記事や、レストラン紹介などのコーディネートをする仕事をしていたとのこと。ところが、トスカーナのオリーブを復興させる目的で、2年ほど前からご主人とともに農園を営まれているという。
Yさんが送ってくれたのは、件のフランコ・バルデイ(商品名でもある)とOさんが生産している『アテナの手』という2種類のオリーブオイルだった。
これだけでも胸の躍る話だ。Yさんが紡ぐ物語の意図が見えてきた。
さて、本題ともいえるノッヴェロの味の話だが、食通のYさんが、力説するのはもちろんこの部分。メールの中で、オイルの美味しい食べ方にについても、解説してくださっていた。このような話に暗い私にとっては冷汗ものなのだったが。
さて、メールのやり取りをした翌日には、きれいに梱包された2本のオリーブオイルが届いた。
オイルを試食して、感想を送ると約束した私は、その使命感にも似た気持ちを心の隅に抱きながら、年末に片付けるべきことをせっせとこなし、夕方にはYさんが教えてくれたように肉をシンプルに調理し、それを二つの皿に分け、そこに岩塩と、フランコ・バルデイと、アテナの手をそれぞれかけて食べてみた。
双方とも自然栽培のノッヴェロ。アテナの手の方は、ノンフィルターということで、早めに食べてしまわないと酸化してしまうというほどの新鮮で自然なもの。それぞれ個性に違いはあるものの、鮮烈な香りと生な苦み、のどをつくほどの辛味は共通の特徴で、その強烈さは味わうというよりも、どこか異質な空間に投げ込まれたようであった。美味しいというより豊かであった。
そして、オイルを口に含んで、言葉を探しているうちに、あることに思い至った。それは、自然栽培ということは、その地域においては昔からそのやり方であったわけで、この豊かさを地元の人々は自然と享受していたのである。その土地の風土が作り出すありのままの味。それがどれだけ豊かなことか。そう、そう言うことだ。
今はこういったものが高級品となっている。それが何故かと言えば、当たり前に作ったものが外国で売られると、運賃もかかるわけだし、それは当然のことと言える。
その土地で食べているそのままの状態で、届けようとすればするほどコストはかかる。外国でも安く売られているものは添加物を入れたり、大量に作るために農法として自然からかけ離れてしまう。残念ながら、そこに本当の味は宿らないのだろう。
今、本当の意味で、真の豊かさを求めなくてはならない時代に、来ているのではなかろうか。
そんなことを考えていて、ぴんと思いついた。このイタリアの一地域の代表と、我が島原の農家が作った新米(年末だからもう新米とは言わないかな)を出会わせよう、そこに文化のスパークが生まれるかもしれない。スパークとはまさに創造のことだ。
ちょうど炊いていたご飯の上に、ソローっとアテナの手をかけ、粒の大きい岩塩を振って口に頬張った。
ムムム、、美味である。
2022/12/27
フランコ・バルデイ(左)とアテナの木(右)
Comments