昨年夏、崇城大学芸術学部で行われた石彫実習に、講師として学生さんたちと一緒に参加しました。
皆、石など触ったこともないような人たちばかり。
ましてや石の道具など、見たこともなかったことでしょう。でもそれだけに興味を惹かれる人はいたと思います。
普段の授業では、古典的な石彫作品を型取りした、石膏像と呼ばれるものをデッサンすることもあります。
ミケランジェロなどの巨匠らが、大きな大理石から像を彫り出したことを、美大生はイメージできるでしょう。
実習では同じく大理石を使いました。
原石から鑿(ノミ)で彫って、ヤスリをかけて、最後は磨きまで。
なかなかイメージが湧きづらいと思いますが、根気のいる作業です。
何せ、石は硬くて重い。
でも参加者たちは、とても根気よくやりました。噴き出す汗もものともせず、一心にノミをふるっていました。
その後ヤスリで形を整える時、同時にノミでできた傷跡も消していきます。やすりが終わった後は、今度はサンドペーパーでやすりの傷跡を消していきます。
この作業は本当に大変で、これまで粘り強く石に立ち向かってきた学生のみんなも、今にも音をあげたくなりそうな雰囲気です。
それはそうですね。
僕だってこの作業には、同じように音をあげたくなるのですから。
僕は皆さんに言いました。
「とても終わる気がしないでしょ。こういう時は石の時間に付き合わなくちゃいけないね。」
「コツを教えます。まずペーパーを石にあてたら、あんまりごしごし強くやらなくていいから、50回手を前後に動かしてみよう。」
「はい、いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、はち、くー、じゅう、いち、にーさん、しーご、ろく、、、、、はい、ごじゅう。」
「ほら,大分傷が取れたでしょう。さあ、もう一回50やってみて。」
「これで石の時間に入れるんです。人間ってさ、何かやったら、すぐに結果が出ないと気に入らないでしょ? でもその感覚のまんまだと、いくらやっても変化しないように感じてしまうんだよ。」
「50回を10回やったら500回だ。それだけやればいつの間にか立派に磨けている。」
「砂浜に転がっている石は丸いでしょ。あれは川の中を流れてくるときに、お互いにぶつかり合って磨かれるわけだ。ずいぶん長い間コツコツぶつかり合って、とてもきれいな形になる。」
「これが磨きの原理なんです。秘密でもあるかな。」
石彫実習は私たち現代人が忘れかけている、石の時間的なものを体験する時間となったかもしれませんね。
2022/1/27
2011年 東北の春
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